[債務整理] 破産会社へ未払い賃料を請求

平成
14
本件

主文

1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,1400万円及びうち175万円に対する平成13年1月1日から,うち175万円に対する同年2月1日から,うち175万円に対する同年3月1日から,うち175万円に対する同年4月1日から,うち175万円に対する同年5月1日から,うち175万円に対する同年6月1日から,うち175万円に対する同年7月1日から,うち175万円に対する同年8月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,破産者株式会社A(以下「破産会社」という。)の破産管財人である原告が,破産会社が被告に賃貸した不動産につき,賃貸借契約に基づき,被告に対し,未払賃料(平成13年1月分から同年8月分)の支払を求めた事案である。
1争いのない事実
(1) 原告は,平成12年11月8日午後5時当庁において破産宣告を受けた破産会社の破産管財人である。
(2) 破産会社と被告は,平成12年3月24日,次のとおり,賃貸借の予約契約を締結した。
ア予約物件広島市a区bc丁目d番地他の土地3600坪のうち550坪の土地及びその土地上に建築を予定する別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)
イ賃貸借契約の内容
(ア) 賃貸借期間開店の日(被告が引渡しを受けた後,破産会社へ通知した日をもって開店日とする。)から20年
(イ) 賃料月額175万円とし,開店日より支払う。
(ウ) 賃料の支払方法毎月末日限り翌月分を,破産会社の指定口座に振り込んで支払う。
(エ) 敷金1750万円
(オ) 建設協力金4000万円
(カ) 建設協力金の返還賃貸借開始日を始期として,初年度より20か年(240回)にわたり賃料との相殺により返還する。
ウ予約契約手付金
(ア) 3750万円を予約契約締結時に支払う。
(イ) 本契約締結後は,(ア)の3750万円を,敷金1750万円,建設協力金2000万円として取り扱う。
エ差入保証金(建設協力金)の預託
(ア) 予約契約締結時2000万円
(イ) 上棟時2000万円
オ本契約の締結日
破産会社と被告は,破産会社が予約物件を完成させて被告に引き渡す日(建物検査完了済証受領時)に,本契約を締結する。
(3) 被告は,破産会社に対し,(2)の賃貸借予約契約締結時,手付金3750万円を支払い,本件建物の上棟時,建設協力金2000万円を預託した。
(4) 破産会社は,平成12年9月18日ころ,本件建物の検査済証を受領し,被告との間で本契約を締結した。
(5) 被告は,破産会社に対し,平成12年9月末日ころ,開店の日を通知した。
(6) 被告は,破産会社に対し,平成12年10月分及び11月分の賃料を各期限までに支払った。
すなわち,被告と破産会社は,建設協力金の一部につき,次のとおり,賃料と相殺した。
ア平成12年10月分15万8700円
イ同年11月分 16万6700円
ウ合計32万5400円
(7) 破産会社は,平成12年11月8日,破産宣告を受け,建設協力金返還債務残金3967万4600円につき,期限の利益を喪失した。
(8) 被告は,原告の平成12年12月分から平成13年8月分までの賃料につき,建設協力金返還請求権と対当額で相殺する旨の意思表示をして,その支払を拒否している。
(9) 原告は,B株式会社(以下「B」という。)に対し,平成13年8月29日,代金300万円で本件建物等を売却した。
その際,Bが原告に対し同月31日までに売買代金300万円を支払い,これと引換えに本件建物等の所有権が移転される旨合意した。
また,原告とBは,上記売買契約に付随して,Bが原告の被告に対する敷金返還債務を承継する旨合意した。
Bは,原告に対し,同月31日,上記売買代金300万円を支払った。
なお,平成13年8月分の賃料債権は,Bではなく原告に帰属している。
(10)Bと被告は,平成13年9月1日,次のとおりの約定で,本件建物及び駐車場の賃貸借契約を締結した。
その際,Bと被告は,この賃貸借契約が(2)の賃貸借予約契約に基づく建物賃貸借契約を承継し,事業用定期借家契約に変更したことを確認した。
ア期間平成13年9月1日から20年間
イ賃料月額158万円(税別)
ウ敷金Bは,原告から敷金返還債務(1750万円)を承継したことを確認する。被告はBに対し,更に1580万円の敷金を預託する。
2争点
破産法103条1項後段に基づく建設協力金返還請求権を自働債権,賃料債権を受働債権とした相殺が認められるか否か。
仮に認められるとした場合,その範囲。
3争点に対する当事者の主張
(1) 被告の主張
破産法103条1項後段は,敷金返還請求権が現在化していない間は,将来発生する敷金返還請求権を自働債権とする相殺を認めないが,敷金返還請求権以外の破産債権を自働債権とする相殺を認める趣旨の規定である。
そして,建設協力金返還請求権は,破産会社の破産により,既に期限の利益が失われている。
したがって,被告は,敷金の限度(本件では1750万円)までは,建設協力金返還請求権との相殺により,本件賃料の支払を免れることができる。
(2) 原告の主張
ア賃貸人が破産宣告を受けた場合,建設協力金返還請求権と相殺ができるのは,破産宣告時における当期及び次期の賃料のみであり,本件の場合,当期である平成12年11月分の賃料は支払われているので,同年12月分のみ相殺ができるにすぎない。
破産法103条1項後段は,同法100条とあいまって,将来敷金返還請求権が確定した場合に相殺が行えるように寄託を請求し,敷金返還請求権額が確定したときには相殺することができるという趣旨の規定であり,自働債権が敷金返還請求権であるか,他の破産債権(本件では建設協力金返還請求権)であるかにかかわらず,敷金によって担保される債権が確定しない間は相殺は認められない。
被告の主張するような解釈をとると,1事実上,賃借人による敷金返還請求権を自働債権とする相殺を認めたことになるから,賃借人のイニシアティブにより,賃料債権(=一部の被担保債権)に限って,担保の実行を強制する権限を与えたことになるし,2本件のように,賃貸建物が賃借権付きのまま換価され,未確定の敷金返還債務が新所有者に承継された場合には,賃借人は,別口の破産債権を原資として賃料の支払を免れるとともに敷金返還請求権を確保するという不当な利益を得,その反面として破産財団は損失を被ることとなり,妥当でない。
イ被告は,破産会社に対し,敷金名下に1750万円を差し入れているが,これは賃料の10か月分にも相当し,本来の意味における敷金ではない。
破産法103条1項後段の「敷金」といえるのは,賃料の数か月分に限られる。

第3争点に対する判断

1破産法103条1項後段に基づく建設協力金返還請求権を自働債権,賃料債権を受働債権とした相殺の可否について
(1) 破産法103条1項前段の趣旨
破産法は,原則として破産債権者による相殺を認め(98条),自働債権については現在化,金銭化の規定を設け(17条,22条),受働債権については期限の利益や条件成就の可能性等を放棄して相殺をなしうるものとして(99条後段),相殺の担保的機能を重視している。
そして,破産債権者が賃借人である場合には,賃貸人(破産者)との間に継続的な契約関係があることから,その有する債権によって賃料債権を相殺することができるという相殺の担保的機能に対する期待はいっそう強いものと考えられる。
しかしながら,賃料債権との相殺を無制限に許すとすると,賃借人たる破産債権者は際限なく破産債権について満足を得ることができ,一方,他の破産債権者はそれだけ損失を被ることとなり,著しく不公平となる。
そして,このような著しく不公平な状況は,賃貸人と賃借人又は第三者との通謀により,容易に作出することが可能である。
そこで,破産法103条1項前段は,破産債権者間に著しい不公平を生じさせず,また,通謀により他の破産債権者を害することを防止するために,相殺できる賃料の範囲を当期及び次期に制限したものと解される。
(2) 破産法103条1項後段の趣旨
そして,破産法103条1項後段は,「敷金アルトキハ其ノ後ノ借賃ニ付亦同シ」と規定し,受働債権(賃料債権)に関し,敷金がある場合にはその限度で次々期以降の賃料債権との相殺を認める旨定めている。
この規定は,賃借人が敷金を差し入れている場合,その金額が既に破産財団の利益となり,破産財団は,賃借人との契約関係が終了するまで敷金の返還を免れ,これを資金として運用できるという利益を有することから,敷金を差し入れている破産債権者(賃借人)が相殺できる範囲を,同項前段の場合に比して拡大したものと解されるところ,自働債権に関し文理上の制約はない。
前記のとおり,破産法は,相殺の担保的機能を重視していると考えられるところ,文理上明確な規定もなく相殺を制限する解釈をとることは相当でないというべきである(敷金返還請求権自体は,賃借人が当該賃貸目的物の明渡しをした後にその履行を請求しうる債権であって,明渡前に行使できる権利ではないから,自働債権を敷金返還請求権に限ると解すると,破産法103条1項後段の適用場面はかなり限られてしまうこととなる。)。
そうすると,破産法103条1項後段は,同項前段と同様,賃料債権と相殺できる限度について定めた規定であって,それ以上に自働債権の種類につき制限を加えた規定ではなく,他の破産債権を自働債権とする相殺を許す規定であると解すべきである。
このように解しても,相殺を主張できるのは,実質的に破産法103条1項後段の「敷金」と認められる範囲に限られるのであるから,破産債権者間の公平を図り,通謀により他の破産債権者を害することを防止するという同条項の趣旨を没却することにはならないというべきである。
また,前記のとおり,敷金を差し入れている賃借人たる破産債権者は,他の破産債権者とは異なる立場にあるから,賃貸建物が賃借権付きのまま換価された結果,他の破産債権との相殺が認められるとともに新所有者に対する敷金返還請求権を確保するという利益を得たとしても,これを不当ないし不公平ということはできないし,破産財団としても,破産債権者が相殺に用いた債務は消滅するのであるから,不当な損失を被ることにはならないというべきである。
(3) 原告の主張は,いずれも前記破産法103条1項後段の趣旨を正解しない見解であって,採用の余地はない。
(4) 以上によれば,被告は,破産法103条1項後段の「敷金」と認められる範囲で,建設協力金返還請求権を自働債権とする相殺により,賃料の支払を免れることができると解される。
1相殺できる範囲について
(1) 原告は,本件において,破産法103条1項後段の「敷金」といえるのは,賃料の数か月分に限られる旨主張する。
(2) 破産法103条1項後段の「敷金」に該当するか否か(あるいは「敷金」に該当する範囲)は,差し入れられた名目だけでなく,賃料額,保証金(建設協力金)額,使用目的,契約当時の状況等の具体的事情を総合考慮の上決すべきである。
本件について検討するに,敷金という項目で差し入れられた1750万円(賃料の10か月分)とは別に,建設協力金として4000万円が預託されていることなどの事情にかんがみると,上記1750万円は,実質的にも,賃料の支払を担保する趣旨で差し入れられたものというべきである。
したがって,上記1750万円は,破産法103条1項後段の「敷金」に該当すると認められるのであるから,原告の主張は採用することができない。
(3) よって,被告は,本訴請求にかかる1400万円全額につき,建設協力金返還請求権との相殺により,支払を免れることができると解するのが相当である。

第4結論

以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用 の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

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